「あのPMはすごい」と思うのは、どんなPMでしょうか?
「あのPMはすごい。トラブルが起きたプロジェクトを見事に立て直した。」
PMとして仕事をしていると、そんな評価を耳にすることがあります。
大きな問題が発生したプロジェクトをまとめ、関係者を説得し、遅れを取り戻す。
確かに、簡単にできることではありません。
しかし、私は以前から少し違和感がありました。
本当にPMとして強いのは、トラブルが起きてからプロジェクトを立て直したPMなのでしょうか?
そもそも、トラブルを起こさなければ、プロジェクトはもっと良かったのではないでしょうか。
ステークホルダーも、メンバーも、トラブルなんて望んでいません。
それならば、トラブルが発生してから華々しく解決するPMよりも、トラブルが起きる前に必要なことを考え、問題の芽を潰し、プロジェクトを何事もなく成功させるPMのほうが、本当はPMとして強いのではないでしょうか。
私は、そんなことを考えるようになりました。
そして、PMとしての「強さ」を考えるために、私は「PM戦闘力」という考え方をするようになりました。
PM戦闘力とは「プロジェクトを成功に導く総合的な強さ」である
私が考えるPM戦闘力とは、
プロジェクトの状況を把握し、そのプロジェクトで何が重要なのかを見極め、必要なマネジメントを実行することで、トラブルを未然に防ぎ、プロジェクトを成功に導く力。そして、その実力や実績を第三者に示すことができる力まで含めた、PMとしての総合的な強さです。
ここで重要なのは、すべてのプロジェクトに同じマネジメントをすればいいわけではないということです。
あるプロジェクトでは、リスクを事前に潰すことが重要かもしれません。
別のプロジェクトでは、ステークホルダーの認識を合わせることが最優先かもしれません。
また別のプロジェクトでは、メンバーの不満や疲弊を早期に把握することが重要かもしれません。
要求が曖昧なプロジェクトなら、スコープを明確にすることが重要でしょう。
つまり、PMに必要なのは「リスクマネジメントが得意」「コミュニケーションが得意」といった個別の能力だけではありません。
そのプロジェクトにとって何が重要なのかを見極め、必要なことを実行する力。
私は、これこそがPM戦闘力の本質だと考えています。
PM戦闘力は「経験×スキル」だけではない
PM戦闘力を考えるうえで、私は次のような概念式を考えています。
PM戦闘力 ≒(経験 × スキル × 適用力)+(資格 + 実績)
もちろん、これは数学的にPMの能力を正確に測る公式ではありません。
PM戦闘力を構成する要素を理解するための、私なりの考え方です。
それぞれの要素には、次のような意味があります。
経験は「何年やったか」より「何を経験したか」が重要
これまで、どのようなプロジェクトを経験してきたのか。
単純なPM経験年数だけではありません。
- どのくらいの規模だったのか
- どのくらい難しいプロジェクトだったのか
- どれくらいの人数をマネジメントしたのか
- ステークホルダーはどれくらいいたのか
- どの程度の責任を担ったのか
- どのような問題に直面したのか
こうした「経験の質」が重要になります。
PM経験10年という数字だけでは、その人のPM戦闘力を判断することはできません。
スキルは「経験を成果につなげる力」である
経験を成果につなげるためには、スキルが必要です。
私はPMに必要なスキルを、大きく4つに分けて考えています。
① 対人スキル
コミュニケーション、リーダーシップ、ファシリテーション、交渉などです。
② 思考系スキル
ロジカルシンキング、問題解決、判断力、リスクを予測する力などです。
③ PM専門系スキル
スコープ、スケジュール、コスト、リスク、ステークホルダーなどをマネジメントする力です。
④ 業務・技術系スキル
業界知識、製品知識、技術知識などです。
ただし、スキルは「持っているだけ」では十分ではありません。
適用力とは「今のプロジェクトで何が重要か」を見極める力
ここがPM戦闘力を考えるうえで、特に重要だと考えています。
例えば、コミュニケーション能力が非常に高いPMがいたとしても、そのプロジェクトで本当にコミュニケーションが最重要なのかは分かりません。
技術的なリスクが最大の問題かもしれません。
スコープの曖昧さが問題かもしれません。
あるいは、メンバーの疲弊が最大のリスクかもしれません。
だからこそ、
「このプロジェクトでは、今何が一番重要なのか?」
を考える必要があります。
そして、必要なスキルを適切なタイミングで使う。
これが適用力です。
PMは、持っているスキルをすべて使えばいいわけではありません。
プロジェクトに合わせて、何を使うのかを選ぶ。
これがPMの難しさであり、PM戦闘力の重要な要素だと私は考えています。
PMの仕事は「トラブルを解決すること」だけではない
PMになると、どうしても「問題解決能力」が注目されます。
もちろん、問題が発生したときに適切に対応できることは重要です。
しかし、私はそれ以上に、
問題が発生する前に、問題の芽を見つけること
が重要だと考えています。
例えば、次のような活動です。
- リスクを事前に洗い出す
- ステークホルダーの認識を合わせる
- 曖昧な要求を放置しない
- 無理なスケジュールを受け入れない
- メンバーの不満を早期に拾う
- プロジェクトの状況を継続的に把握する
- 必要なときには早めにエスカレーションする
こうした活動は、プロジェクトに大きなトラブルが起きなければ、外からは見えにくいものです。
しかし、だからといって価値がないわけではありません。
むしろ、
「何も起きなかった」という結果の裏側に、PMの仕事が詰まっている。
私はそう考えています。
もちろん、どれだけ優れたPMでも、すべてのトラブルを防ぐことはできません。
だからこそ、
トラブルを起こさせない。
そして、
起こってしまったトラブルの影響を最小限にする。
その両方がPMの重要な役割です。
資格はPM戦闘力の「装備」である
では、資格はPM戦闘力にどのように関係するのでしょうか。
私は、資格を「装備」だと考えています。
例えば、PMP®やIPAプロジェクトマネージャ試験などの資格を取得したからといって、それだけでプロジェクトを成功させられるようになるわけではありません。
資格を取っただけなら、あくまで「装備」を手に入れた状態です。
しかし、資格取得のために勉強することで得られた知識は違います。
プロジェクトマネジメントの体系的な知識を学び、それを実務で使えば、それは自分自身のPM戦闘力になります。
さらに、資格は第三者に対して、
「私はこうした知識を体系的に学んできました」
と示すための材料にもなります。
つまり資格には、
- 自分自身の知識・スキルを高める効果
- 第三者に能力を証明する効果
の2つがあります。
だからこそ、資格はPM戦闘力を考えるうえで重要な「装備」なのです。
実績もPM戦闘力の重要な要素である
資格だけではなく、実績も重要です。
例えば、次のようなものです。
- 大規模プロジェクトを成功させた
- 難易度の高いプロジェクトを完遂した
- プロジェクトの遅延を防いだ
- リスクを事前に潰した
- 関係者間の対立を解消した
- プロジェクトの進め方を改善した
ここで、私は一つ問題提起をしたいと思っています。
「トラブルを解決した」という実績だけが、PMの実績ではないのではないでしょうか。
大きなトラブルを解決したことは、確かに分かりやすい実績です。
一方で、
「大きなトラブルを発生させずにプロジェクトを成功させた」
という実績は、目立ちにくい。
しかし、PMとしての価値を考えれば、後者も非常に重要です。
何も起きなかったこと自体が、PMの成果かもしれない。
この視点は、PM戦闘力を考えるうえで大切にしたいと思っています。
プロジェクトで強いPMと、市場で強いPMは同じなのか?
ここからが、PM戦闘力を考えるもう一つの理由です。
私は、プロジェクトの中で強いPMと、市場で強いPMは、現実には必ずしも一致しないと考えています。
例えば、プロジェクトを安定して運営し、大きなトラブルを起こさず、関係者との調整を行い、予定通りプロジェクトを完了させる。
これは非常に価値のある仕事です。
しかし、その価値を第三者に説明するのは簡単ではありません。
一方、
「大きなトラブルが発生したプロジェクトを立て直した」
という実績は、とても説明しやすい。
資格も同じです。
資格は実際のPM能力を完全に証明するものではありません。
しかし、第三者から見れば、分かりやすい評価材料になります。
つまり、
PMとしての実力
と
PMとしての市場価値
には、ギャップが生まれることがあります。
私は、このギャップはできるだけ小さくしたいと思っています。
理想は、
プロジェクトで本当に強いPMが、市場でも正しく評価されること。
そのためには、自分の経験やスキルだけでなく、資格や実績を含めて、自分のPM戦闘力を第三者に伝えられるようにすることが重要です。
PM戦闘力を高めるには「経験・スキル・適用力・資格・実績」を伸ばす
ここまでの話を整理すると、PM戦闘力を高める方法は一つではありません。
経験を増やす
ただ年数を重ねるだけではありません。
「今まで経験したことのない規模・難易度のプロジェクトに挑戦する」
ということも重要です。
スキルを高める
自分の弱いスキルを見つけて、意識的に伸ばします。
特に、次のような視点で自分に不足しているものを考えてみるのもよいでしょう。
- 対人スキル
- 思考系スキル
- PM専門系スキル
- 業務・技術系スキル
適用力を高める
「PMならこれをやる」という固定観念を持つのではありません。
「このプロジェクトでは何が重要なのか?」
を常に考えます。
そして、必要なマネジメントを選択して実行します。
資格を取得する
資格取得を目的にするのではありません。
知識を身につける+第三者に証明する
という2つの目的で活用します。
実績を言語化する
自分がプロジェクトで何をしたのか。
どんな問題を防いだのか。
どんな判断をしたのか。
どんな成果につながったのか。
これらを言葉にしておきます。
そうすることで、自分では当たり前だと思っていた仕事が、PMとしての実績として見えてくることがあります。
あなたのPM戦闘力を高めるために
ここまで読んで、
「では、自分のPM戦闘力はどのくらいなのだろう?」
と思った方もいるのではないでしょうか。
PM戦闘力は、単純に「PM経験○年」「PMP®取得済み」といった一つの指標だけでは判断できません。
経験、スキル、適用力、資格、実績。
それぞれを自分自身に当てはめて考える必要があります。
そこで、このシリーズでは、PM戦闘力を構成するそれぞれの要素について、さらに掘り下げていきます。
- PM経験年数だけでは戦闘力は上がらない?経験の質について
- PM戦闘力を高めるPMスキルとは?
- PM資格は本当に必要?資格を「戦闘力の装備」として考える
- PMの実績とは何か?トラブルを解決しただけが実績ではない
- なぜトラブルを起こさないPMは評価されにくいのか?
- あなたのPM戦闘力はどれくらい?PM戦闘力を自己診断する
- PM戦闘力を高めるには?
- PM戦闘力と転職・市場価値の関係
それぞれの記事で、PM戦闘力をさらに具体的に考えていきます。
※記事は順次上げていきます。乞うご期待ください。
まとめ:強いPMとは、トラブルを解決するPMだけではない
PMとして仕事をしていると、どうしても「問題を解決した経験」が目立ちます。
しかし、本当にPMとして強い人は、問題が起きてから動くのではなく、問題が起きる前からプロジェクトを見ています。
- リスクを見つける
- 関係者の認識を合わせる
- メンバーの状態を把握する
- 曖昧な要求を放置しない
- 必要なときにはエスカレーションする
そして、そのプロジェクトにとって何が重要なのかを判断し、必要なことを実行する。
私は、そんなPMこそ「PM戦闘力が高いPM」だと考えています。
そして、その戦闘力を構成するのが、
(経験 × スキル × 適用力)+(資格 + 実績)
という考え方です。
もちろん、この式に正解があるわけではありません。
PM戦闘力という言葉自体も、PMBOK®︎などに定義された正式な用語ではありません。
10年間PMとして仕事をしてきた私が、「PMとして本当に強いとはどういうことなのか」を考えた結果として生まれた、一つの考え方です。
あなたは、自分のPM戦闘力をどのように考えますか?
経験は十分でしょうか。
必要なスキルは身についているでしょうか。
プロジェクトごとに「何が重要なのか」を見極められているでしょうか。
そして、その実力を第三者に伝えられる資格や実績を持っているでしょうか。
ぜひ一度、自分自身のPM戦闘力について考えてみてください。
私は令和5年度 IPAプロジェクトマネージャ試験に合格しました。
実際に合格した経験をもとに、勉強方法やおすすめ参考書、最難関といわれる午後Ⅱ論文の対策方法を詳しく解説しています。
「これから勉強を始めたい」「効率よく合格したい」という方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。

